叢書 | ハヤカワ文庫 JA |
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出版社 | 早川書房 |
発行日 | 1976/08/31 |
装幀 | 宮内保行 |
収録作品
- 襲撃のメロディ / 1
- 幽霊列車 / 2
- 最後の襲撃 / 3
襲撃のメロディの収録作品とストーリー
山田正紀の「襲撃のメロディ」は、1970年代に発表された傑作ディストピア連作集である。巨大コンピューターによる管理社会の恐怖と、それに抵抗する人々の姿が描かれている。テクノロジーの急速な発展が生み出した近未来社会の暗部を冷徹に分析しつつ、人間性の残された隙間を見つめ直す作品として高く評価できる。
本作品は3つの短編から構成されており、第一部「襲撃のメロディ/1」、第二部「幽霊列車/2」、第三部「最後の襲撃/3」と続いていく。登場人物やエピソードは異なるものの、巨大コンピューターの支配する管理社会に対する抵抗と、そこに生きる人々の姿が赤の糸となって作品全体を貫いている。
襲撃のメロディ/1
冒頭を飾る「襲撃のメロディ/1」では、東京湾に建設された巨大な電子頭脳コンピューターが、経済のみならず外交戦略までも取り仕切る近未来社会が描かれる。一見理想的な効率社会かもしれないが、史実までもねじ曲げようとするその姿勢には戦慄を覚える。
物語の主人公である"ぼく"は、反電子頭脳主義者の一員として、この巨大電子頭脳に潜入し自動制御室を破壊しようと企てる。扉を開かせる手段や、電子頭脳が管理する対象など、細部のアイデアが緻密に練られている点が見どころだ。しかし、そこで待ち構えていた運命とは...。まさに予測不能なラストが、読者を次の物語へと導いていく。
幽霊列車/2
第二部「幽霊列車/2」に移ると、新たな主人公"私"が登場する。かつてはシステムエンジニアとして働いていたが、巨大コンピューターの管理に反抗し、今はけちなゆすり屋へと成り下がってしまっている。ある日、新幹線の座席予約システムに不具合が発生し、調査に訪れた"私"が、そのトラブルの背後に"幽霊列車"という存在を見出すのである。
時刻表に現れない謎の列車が走っているという設定はある種ホラー的であり、実に気味が悪い。この"幽霊列車"が果たして何を運んでいるのか。そしてそれは管理社会とどのように関係しているのか。ミステリアスな端々が次々に垣間見えながら、ラストに向けて物語は加速していく。
最後の襲撃/3
そして第三部「最後の襲撃/3」に移ると、これまで物語の裏側に潜んでいた"彼"の正体が明らかになる。医師と電子工学者に謎のプログラムを作成させ、反電子頭脳主義者の運動を裏で操っていたのだ。そして一斉検挙の日、"彼"が動き出した真の目的とは...。
この最終部では、これまでの2編で描かれてきた管理社会のひずみが頂点に達する。"彼"の計画の皮肉な結末は見事であり、同時に人間の尊厳が再確認される瞬間でもある。サイバーパンク小説の特徴である、テクノロジーと人間性のせめぎあいが芸術的に昇華された作品なのである。
「襲撃のメロディ」全体を通して感じられるのは、山田正紀の緻密な作品構成力である。3編の短編を通して、巧みに主題を形作りながら、それぞれに見どころを設けている。たとえば突如現れる予測不能な展開、謎めいた設定の数々、そして全編を貫く問題意識など、読者を作品世界に惹きこむ要素が慧眼に盛り込まれている。
加えて、1970年代の作品ながら古びた印象は少なく、むしろ現代的な意義をはらんでいる。AIやビッグデータ解析が加速度的に発達しつつある昨今、人工知能に人間がコントロールされてしまう可能性は現実味を帯びてきた。そうした中で改めて読み返せば、本作が投げかけるメッセージの重みが増すであろう。
人類とテクノロジーの関係を冷徹に見つめつつ、人間の内面に宿る可能性を希求する。サイバーパンクの金字塔にして、現代的示唆に富む傑作として、「襲撃のメロディ」は強くおすすめできる作品である。
文庫・再刊情報
叢書 | 角川文庫 |
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出版社 | 角川書店 |
発行日 | 1978/06/15 |
装幀 | 福田隆義 |