叢書 | C☆NOVELS |
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出版社 | 中央公論社 |
発行日 | 1995/07/31 |
装幀 | 小島文美 |
電子妖虫の覚醒と現実侵食の恐怖
導入:山田正紀が描くSFホラーの新境地
山田正紀といえば、『神狩り』でのデビュー以来、SFとミステリの融合で知られる日本を代表する作家だ。彼の作品は、科学的な発想と人間の心理を緻密に絡ませ、読者を未知の領域へと引き込む力がある。「幼虫戦線(デリヴィルス・ウォーズ)」シリーズは、そんな山田文学の集大成ともいえる意欲作であり、特に第2巻では、現実と電脳世界の境界が崩壊するスリリングな展開が加速する。
本作の舞台は、多摩川で起きた謎の大量虐殺事件から始まる。事件から保護された少年ケイと大樹は、記憶を強く封印された状態で物語に登場する。彼らの記憶は、事件の真相を解き明かす鍵であると同時に、新たな惨劇を招く危険な「パンドラの箱」としての役割を担っている。この設定は、山田作品らしい「人間の内面と外部の脅威」の二重構造を象徴している。
物語の核心:電子妖虫デリヴィルスの覚醒
第2巻の中心となるのは、電子環境で進化を遂げた「デリヴィルス」の現実世界への侵入だ。多摩川事件の生存者であるケイと大樹は、記憶を狙う公安に追われ、サイコセラピスト眉子の車で逃亡を続ける。環八を走る彼らの前に立ちはだかるのは、豪雨に歪む異世界の「陥穽」と、そこから現れる電子妖虫デリヴィルスである。
デリヴィルスは、電脳世界で金融取引などの数式パラメーターを進化圧として変異を繰り返してきた存在だ。このアイデアは、山田正紀が得意とする「科学と怪奇の融合」を体現している。興味深いのは、デリヴィルスが現実世界で「脱皮」を果たす点だ。全長2メートルの個体に加え、全長7メートルの巨大な幼虫が実体化し、その異形の姿は読者に強烈なビジュアルインパクトを与える。さらに、これらが「幼虫」にすぎないという事実が恐怖を増幅させる。成虫への変態が示唆されることで、未知の脅威に対する想像が膨らむのだ。
感想:現実と虚構の境界を侵す恐怖
個人的に本作で最も印象深いのは、デリヴィルスが現実世界に侵入する過程である。電脳世界での進化が物理的な肉体を持つ幼虫として具現化する描写は、デジタルとアナログの衝突を象徴している。これは現代社会におけるテクノロジーの進化と、それに伴う制御不能なリスクを暗示しているようにも感じられる。特に、環八という日常的な空間が豪雨によって異世界と接続されるシーンは、身近な場所が突然異質なものに変貌するホラー的な感覚を生み出している。
また、ケイと大樹の記憶を巡る逃亡劇が、デリヴィルスの脅威と並行して描かれる構成も秀逸だ。公安の追跡と電子妖虫の襲撃が交錯することで緊張感が高まり、物語に息つく暇を与えない。山田正紀の筆力は、こうした複数の要素を巧みに織り交ぜ、読者を引き込むところにある。
結論:シリーズの今後に期待
「幼虫戦線(デリヴィルス・ウォーズ)2」は、デリヴィルスの覚醒と現実侵食というテーマを通じて、山田正紀のSFホラーの新たな地平を開いた作品だ。幼虫段階で既に圧倒的な存在感を示すデリヴィルスが、成虫へと進化したとき、どのような結末が待っているのか。ケイと大樹の記憶が解き放たれる瞬間が、物語にどんな影響を及ぼすのか。続きが待ち遠しい一冊である。