日曜日には鼠を殺せ

日曜日には鼠を殺せ

人間か、実験動物<ラット>か。山田正紀が描く、認知科学SFの息詰まる脱出劇!

2025年4月2日
2025年4月2日

日曜日には鼠を殺せ 初版書影

叢書 祥伝社文庫(特別書下ろし)
出版社 祥伝社
発行日 2001/11/10
装幀 中原達治、菊池誠

山田正紀の“人間狩りSF”が問いかけるもの

これは、ただのサバイバルSFではない。 山田正紀の『日曜日には鼠を殺せ』(祥伝社文庫、2001年)は、「人間とは何か?」というテーマを、独裁国家×デスゲームという装置を使って突きつけてくる、骨太な中編だ。

たった160ページ弱――でも、そこには強烈な設定と、切れ味鋭い展開、そして読後に残る不思議な余韻がある。 本記事では、その魅力と構造を、山田ファンとしての視点も交えながら紹介していこう。


あらすじ:恐怖国家と“鼠”たちの脱出ゲーム

舞台は、統首〈ファーザー〉 を頂点に据えた、21世紀型の恐怖政治国家。 この国では、反体制派や異端者たちは次々と逮捕され、誰も出られぬ監獄〈恐怖城〉に送られる。

ところが統首の誕生日、8人の囚人が選ばれ、“一時間以内に〈恐怖城〉から脱出できれば特赦” という残酷なゲームに強制参加させられる。 元公安刑事、テロリスト、ニュースキャスター、主婦、そして謎めいた少女……彼らは“鼠”として檻の中から解き放たれ、恐怖の迷宮に放たれる。

そして、待ち受けるのは 知覚装置をもつ殺戮ロボット“レディ” や、ツインヘッドと呼ばれる人型兵器たち――。

「この門をくぐる者、すべての希望を捨てよ!」(作中引用)

物語構造

物語は約170ページの中編作品であり、主に三つのステージから構成されています:

  1. 「連続記録」:監視抹殺ロボットが徘徊する迷路を抜ける段階
  2. 「瞬間記録」:リニア・トロッコで脱出する段階
  3. 「1-0記録」:断崖絶壁を飛び越える最終段階

これらの障害を突破するために、8人の囚人たちはそれぞれの知識や能力を駆使し、時に協力し、時に裏切りながら、生き残りをかけて闘います。

登場人物

作品には多様な背景を持つ8人の囚人が登場します:

  • 元公安刑事の関口
  • テロリストの矢作
  • ニュースキャスターの新庄
  • 新庄のアシスタント稲葉
  • 主婦の佐島
  • 少女の純
  • 若いチンピラ
  • 恐怖城の構造に詳しい塚田

限られたページ数ながら、山田正紀は登場人物それぞれに個性を与え、描き分けることに成功しています。彼らは生存本能と人間としての尊厳の間で揺れ動きながら、過酷な環境を生き抜くために奮闘します。


見どころ①:スピーディな展開と“情報のそぎ落とし”

レビューサイト「オッド・リーダーの読感」でも指摘されているように、本作はたった160ページの中編ながら、背景説明を最小限に抑え、アクションと脱出劇に集中しているのが特徴だ。

  • ストーリーは迷宮からの脱出劇に絞られ、無駄なサイドストーリーは一切ナシ。
  • 各キャラの描き分けも鮮やかで、短いながら印象に残る(特に少女“純”の存在感は異様な静けさがある)。

これは山田正紀の“削ぎ落としの美学”が炸裂してる好例だと思う。


見どころ②:デスゲームではなく“認知SF”

一見すると『バトル・ロワイアル』や『カイジ』のようなサバイバルゲームものだが、本質はもっと哲学的だ。

囚人たちは“監視ロボットの知覚”をいかに欺くかを考え、現実と認識のズレを突く。 これは単なるアクションではなく、“認知SF的仕掛け”の作品なのだ。

「ロボットの知覚を騙せば、脱出できる」 ——このコンセプトが物語を一段深くしている。

参考: 読書メーター 感想


見どころ③:人間性と尊厳への問い

本作の最大の魅力は、「人間とは、駒にすぎないのか?」という問い。

登場人物たちはシステムに翻弄されながらも、何かを守ろうとし、時に他者を救おうとする。 “ゲームの駒”として消費されながらも、最後の瞬間まで 「人間であろうとする意志」 が描かれている。

これは、「ぼやいたるねん」の書評にもあるように、山田作品に一貫するテーマでもある。


ここが惜しい:世界観の狭さと急ぎ足

正直に言えば、“恐怖城”の描写がやや薄いのは残念だった。 舞台設定がもう少し深く描かれていたら、より深く世界観に浸れたかもしれない。

また、終盤の展開はスピーディすぎて、キャラクターたちの退場も早い。 「あと50ページあったら…!」というのは多くの読者が感じるはずだ。

参考:Amazonレビュー


こんな人におすすめ

  • 山田正紀ファンで、シリアス系のSFを求めている人
  • デスゲーム物が好きだけど、哲学的な要素も味わいたい人
  • 短時間で“濃い”SFが読みたい人(通勤読書にも◎)

外部レビューリンク集(もっと読みたい人へ)


あとがき:山田正紀という作家の“変奏”

『日曜日には鼠を殺せ』は、山田正紀作品の中でも異色かつ密度の高い中編だ。 彼の代表作『神狩り』『宝石泥棒』とは異なる方向性だが、 “人間とは何か”を、SFと娯楽で問い続けるという軸は変わらない。

短いページ数ながら、読後に思わず天井を見上げてしまうような…そんな小さな衝撃が残る。 読んで損なし、いや、むしろ読まなきゃ損な一冊だ。