2025年5月7日

神君幻法帖 初版書影

叢書 初版
出版社 徳間書店
発行日 2009/02/28
装幀 佐伯俊男、岩郷重力+Wonderworkz。

🌀山田正紀が挑んだ“伝奇”の極北🌀

山田正紀による『神君幻法帖』は、一見すると山田風太郎の『甲賀忍法帖』を彷彿とさせる時代伝奇バトルもの。だがその本質は、“オマージュ”にとどまらない独自の科学的視点と物語構造の挑戦にあります。

舞台は元和三年。徳川家康の霊柩を日光東照社へ運ぶ儀式──その裏に、山王一族と摩多羅一族、計十四人の“幻法者”たちの死闘が仕組まれるという奇想天外なプロット。命じたのは天海僧正、目的はただひとつ、「徳川幕府の盤石なる安泰」である。

この設定だけでゾクッとする人は、確実に“風太郎忍法帖”の信者か、それに類する伝奇ジャンキーでしょう。


✨幻法とは何か?──“忍法”の科学的アップデート

最大の特徴は“幻法”という術技の描写。その実態は、一見してオカルトじみた忍法のようでありながら、**現代科学用語で無理矢理こじつけられた説得力のある“仕掛け”**です。

  • ツーミラーズニューロンによる読心術
  • ノンコーディングRNA操作
  • 眼力によるDNA書き換え
  • 神経伝達の遮断による擬死演出

などなど、一見SFのような説明が時代劇の中に混ざる奇妙な感覚は、まさに山田正紀ならでは

「忍法が持っていた“胡散臭さ”を、あえて科学で裏付けるという二重のうさんくささ」(黄金の羊毛亭


🧑‍🤝‍🧑主な登場人物とその幻法

  • 山王主殿介(とのものすけ):山王一族の棟梁。真面目で冷静。幻法は物質透過系。
  • 摩多羅木通(またら・あけび):摩多羅一族の女棟梁。妖艶で激しい。幻法は視覚誘導・幻視操作。
  • 膚主善(はだえ・しゅぜん):不死身の肉体を持つ。
  • 双伴内(ふたつ・ばんない):肩の人面瘡に別人格を宿す。
  • 首六衛(おびと・ろくえ):相手の思考を読み取る幻法。

この“ネーミングセンス”と“技の無茶苦茶さ”も、まさに忍法帖テイスト。だが決定的に違うのは、キャラクターが物語のコマであることを意識している冷静さ


🧠“風太郎忍法帖”との比較で浮き彫りになる強みと弱み

観点『甲賀忍法帖』『神君幻法帖』
設定明確な対立理由(将軍後継問題)理由が伏せられており、途中で明かされる
術技の解釈医学ベースの胡散臭い理屈現代科学ベースのもっと胡散臭い理屈
キャラの魅力強烈な個性とエロティシズム多少淡泊、理屈優先な印象
恋愛ドラマロミオとジュリエット型同左だが、感情の起伏はやや控えめ
最終展開権力による使い捨ての虚しさと戦いの無常感歴史と現代科学、伝奇と合理性の間で物語が反転する構造

🔍各種レビューのハイライト

✔️面白いポイント

  • 幻法の説明が、時に笑えるほど過剰でクセになる(オッド・リーダー
  • 終盤で“真の目的”が明かされ、物語構造そのものがひっくり返る快感SF休み
  • 木通と主殿介のロマンスがサービス精神旺盛に挿入されている(MIDNIGHT DRIKER

❌残念ポイント


🧩どんな人にオススメ?

  • 『甲賀忍法帖』を読んで「これを現代風に解釈したらどうなる?」と思った人
  • SFと時代劇、両方のテイストが好きな人
  • 突飛な設定とバトルが大好物な伝奇ファン
  • “幻法”という概念にピンときた人
  • 山田正紀の作品が好きで、“変化球”を味わいたい人

💬よくある質問(FAQ)

Q1. 風太郎忍法帖シリーズを読んでないけど楽しめる?

A. 問題なし。読んでいればニヤリとできるが、作品単体で理解可能。

Q2. エロ要素はある?

A. 多少あるが、“控えめな風太郎”程度。過激さは抑えられている。

Q3. 歴史的事実とどれくらいリンクしてるの?

A. 家康の遺体移送という史実は踏まえているが、基本はフィクション重視

Q4. 続編はある?

A. 巻末で『くノ一忍法帖』のオマージュである『おんな幻法帖』の構想が語られている。


🎯あとがきに代えて:これは“伝奇”か、それとも“検証劇”か?

『神君幻法帖』は、山田正紀が“山田風太郎の呪縛”を逆手に取って作り上げた、最大限のオマージュであり最小限の挑発です。

風太郎の持っていた“虚構の爆発力”を、現代科学で“あえてリアルにする”という倒錯的快楽に仕上げたこの作品は、たしかに“甲賀忍法帖の再来”ではありません。むしろその影に隠れて、読者の認識そのものを幻術で撹乱する“正紀幻法帖” なのです。

それにしても……幻法って、科学的に解説されればされるほど、どうしてこんなに“うさんくさい”んでしょうね(笑)


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文庫・再刊情報

神君幻法帖文庫書影

叢書 徳間文庫
出版社 徳間書店
発行日 2013/10/15
装幀 佐伯俊男、岩郷重力+Wonderworkz。