
神君幻法帖
史実を骨、科学を刃、幻想を血肉に――真新しい『幻法帖』誕生
Table of contents
叢書 | 初版 |
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出版社 | 徳間書店 |
発行日 | 2009/02/28 |
装幀 | 佐伯俊男、岩郷重力+Wonderworkz。 |
🌀山田正紀が挑んだ“伝奇”の極北🌀
山田正紀による『神君幻法帖』は、一見すると山田風太郎の『甲賀忍法帖』を彷彿とさせる時代伝奇バトルもの。だがその本質は、“オマージュ”にとどまらない独自の科学的視点と物語構造の挑戦にあります。
舞台は元和三年。徳川家康の霊柩を日光東照社へ運ぶ儀式──その裏に、山王一族と摩多羅一族、計十四人の“幻法者”たちの死闘が仕組まれるという奇想天外なプロット。命じたのは天海僧正、目的はただひとつ、「徳川幕府の盤石なる安泰」である。
この設定だけでゾクッとする人は、確実に“風太郎忍法帖”の信者か、それに類する伝奇ジャンキーでしょう。
✨幻法とは何か?──“忍法”の科学的アップデート
最大の特徴は“幻法”という術技の描写。その実態は、一見してオカルトじみた忍法のようでありながら、**現代科学用語で無理矢理こじつけられた説得力のある“仕掛け”**です。
- ツーミラーズニューロンによる読心術
- ノンコーディングRNA操作
- 眼力によるDNA書き換え
- 神経伝達の遮断による擬死演出
などなど、一見SFのような説明が時代劇の中に混ざる奇妙な感覚は、まさに山田正紀ならでは。
「忍法が持っていた“胡散臭さ”を、あえて科学で裏付けるという二重のうさんくささ」(黄金の羊毛亭)
🧑🤝🧑主な登場人物とその幻法
- 山王主殿介(とのものすけ):山王一族の棟梁。真面目で冷静。幻法は物質透過系。
- 摩多羅木通(またら・あけび):摩多羅一族の女棟梁。妖艶で激しい。幻法は視覚誘導・幻視操作。
- 膚主善(はだえ・しゅぜん):不死身の肉体を持つ。
- 双伴内(ふたつ・ばんない):肩の人面瘡に別人格を宿す。
- 首六衛(おびと・ろくえ):相手の思考を読み取る幻法。
この“ネーミングセンス”と“技の無茶苦茶さ”も、まさに忍法帖テイスト。だが決定的に違うのは、キャラクターが物語のコマであることを意識している冷静さ。
🧠“風太郎忍法帖”との比較で浮き彫りになる強みと弱み
観点 | 『甲賀忍法帖』 | 『神君幻法帖』 |
---|---|---|
設定 | 明確な対立理由(将軍後継問題) | 理由が伏せられており、途中で明かされる |
術技の解釈 | 医学ベースの胡散臭い理屈 | 現代科学ベースのもっと胡散臭い理屈 |
キャラの魅力 | 強烈な個性とエロティシズム | 多少淡泊、理屈優先な印象 |
恋愛ドラマ | ロミオとジュリエット型 | 同左だが、感情の起伏はやや控えめ |
最終展開 | 権力による使い捨ての虚しさと戦いの無常感 | 歴史と現代科学、伝奇と合理性の間で物語が反転する構造 |
🔍各種レビューのハイライト
✔️面白いポイント
- 幻法の説明が、時に笑えるほど過剰でクセになる(オッド・リーダー)
- 終盤で“真の目的”が明かされ、物語構造そのものがひっくり返る快感(SF休み)
- 木通と主殿介のロマンスがサービス精神旺盛に挿入されている(MIDNIGHT DRIKER)
❌残念ポイント
- 戦う理由が初期段階では弱く、感情移入しにくい(時代伝奇夢中道)
- 幻法の説明が長くてテンポが落ちる(たまらなく孤独で、熱い街)
- キャラの個性が“風太郎本家”と比べるとやや地味(ブクログ)
🧩どんな人にオススメ?
- 『甲賀忍法帖』を読んで「これを現代風に解釈したらどうなる?」と思った人
- SFと時代劇、両方のテイストが好きな人
- 突飛な設定とバトルが大好物な伝奇ファン
- “幻法”という概念にピンときた人
- 山田正紀の作品が好きで、“変化球”を味わいたい人
💬よくある質問(FAQ)
Q1. 風太郎忍法帖シリーズを読んでないけど楽しめる?
A. 問題なし。読んでいればニヤリとできるが、作品単体で理解可能。
Q2. エロ要素はある?
A. 多少あるが、“控えめな風太郎”程度。過激さは抑えられている。
Q3. 歴史的事実とどれくらいリンクしてるの?
A. 家康の遺体移送という史実は踏まえているが、基本はフィクション重視。
Q4. 続編はある?
A. 巻末で『くノ一忍法帖』のオマージュである『おんな幻法帖』の構想が語られている。
🎯あとがきに代えて:これは“伝奇”か、それとも“検証劇”か?
『神君幻法帖』は、山田正紀が“山田風太郎の呪縛”を逆手に取って作り上げた、最大限のオマージュであり最小限の挑発です。
風太郎の持っていた“虚構の爆発力”を、現代科学で“あえてリアルにする”という倒錯的快楽に仕上げたこの作品は、たしかに“甲賀忍法帖の再来”ではありません。むしろその影に隠れて、読者の認識そのものを幻術で撹乱する“正紀幻法帖” なのです。
それにしても……幻法って、科学的に解説されればされるほど、どうしてこんなに“うさんくさい”んでしょうね(笑)
📚参考URL一覧(外部リンク):
文庫・再刊情報
叢書 | 徳間文庫 |
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出版社 | 徳間書店 |
発行日 | 2013/10/15 |
装幀 | 佐伯俊男、岩郷重力+Wonderworkz。 |