叢書 | 初版 |
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出版社 | 徳間書店 |
発行日 | 1980/08/31 |
装幀・扉カット | 角田純男 |
収録作品
- プラズマイマイ
- ファントムーン
- カタパルトリッパー
- シエロス
- メロディアスペース
- タナトスカラベ
「超・博物誌」について
山田正紀の「超・博物誌」は、1980年に刊行されたSF連作短編集です。本書は、はるか未来の辺境の惑星に住むアマチュア博物学者の"わたし"が、観察した奇妙な生命体についてつづった博物誌という体裁をとっています。
各短編では、"プラズマイマイ"、"ファントムーン"、"カタパルトリッパー"など、奇想天外な生き物たちが次々と登場します。これらの生命体は、宇宙空間で生息していたり、超高速で宇宙へ飛び出そうとしていたりと、SFならではの設定が施されています。山田正紀の豊かな想像力によって生み出された、未知なる生命体の不思議な生態が、読者を魅了してやみません。
しかし、「超・博物誌」の魅力はそれだけではありません。博物誌の記述者である"わたし"の回想を通して、その人生の断片が少しずつ明らかになっていきます。"わたし"は数々の職を転々とした後、辺境の惑星に腰を落ち着けて生き物たちの観察にいそしむ人物ですが、その背景には、さまざまな出来事や思い出が隠されているのです。
例えば、「ファントムーン」では、事故で母親を失った幼い少女を連れて、"わたし"が30,000ガウスの磁場の中へ、ファントムーンを観察しに行く様子が描かれます。また、「カタパルトリッパー」では、超高速で宇宙へ飛び出そうとして燃え尽きてしまう虫"RUN"を観察しながら、"わたし"が"ここよりほかの場所"を求めて旅立った青年を思い出すシーンがあります。
こうした"わたし"の回想は、一見すると生き物たちの観察記録とは関係がないように思えます。しかし、それらはすべて、"わたし"という人物の人生や心情を浮き彫りにするための重要な要素なのです。生き物たちの不思議な生態と、"わたし"の人生が織りなす物語は、読者に深い感慨を与えずにはおきません。
また、「超・博物誌」では、"わたし"の回想を通して、物語の背景となる世界の姿も少しずつ明らかになっていきます。例えば、「シエロス」では、惑星"海の底"のサナトリウムで出会った少女の思い出が語られますが、そこから、この世界には"海の底"と呼ばれる惑星が存在することがわかります。「メロディアスペース」では、地中3kmの深さから飛び出してくる"イカルス"を観察しながら、"わたし"が宇宙空間で出会った"メロディアスペース"と呼ばれる存在について語られます。こうした断片的な情報から、「超・博物誌」の舞台となる世界の広がりを感じ取ることができるのです。 以下に、各短編の簡単な紹介をしておきましょう。
「プラズマイマイ」
祭の夜、“わたし”の部屋に飛び込んできたプラズマイマイ。その体はプラズマで満たされ、美しい光を放っています。“わたし”はその生態を観察するために、“火の花”畑に赴きます。そこで目にしたのは、プラズマをエネルギー源とする生態系と、プラズマイマイの驚くべき繁殖方法でした。
「ファントムーン」
事故で母親を失った幼い少女を連れて、“わたし”は30,000ガウスの磁場の中へ、ファントムーンを観察しに行きます。ファントムーンは、磁場に反応して出現する、幻のような生物です。少女は、ファントムーンの中に母親の姿を重ね合わせます。“わたし”は、少女の悲しみと、ファントムーンの儚さに、自身の過去を重ね合わせます。
「カタパルトリッパー」
超高速で宇宙へ飛び出そうとして燃え尽きてしまう虫、“RUN”を観察していた“わたし”は、同じように“ここよりほかの場所”を求めて旅立った青年を思い出します。青年は、宇宙への憧れを叶えるため、危険な改造ロケットに乗り込みました。しかし、その夢は叶うことなく、彼は命を落としました。“RUN”と青年の姿は、“わたし”にとって、宇宙への憧れと、人間の儚さを象徴するものとなります。
「シエロス」
“わたし”は古い映画を見ながら、惑星“海の底”のサナトリウムで出会った少女の思い出にふけります。少女は、不治の病に罹っていました。しかし、彼女は悲観することなく、残された時間を精一杯生きようとしていました。“わたし”は、少女の強さと優しさに触れ、人生の意味について考えさせられます。
「メロディアスペース」
地中3kmの深さから飛び出してくる“イカルス”を観察しながら、“わたし”はかつて宇宙空間で出会った、メロディアスペースと呼ばれる存在に思いをはせます。メロディアスペースは、宇宙空間そのものが生命体であるかのような、不思議な存在でした。“わたし”は、メロディアスペースとの遭遇を通して、宇宙の広大さと、人間の想像力の限界を感じます。
「タナトスカラベ」
タナトスカラベを観察するために、絶壁をザイルで降下していた“わたし”でしたが、事故に遭い、宙吊り状態になってしまいます。死を覚悟した“わたし”は、走馬灯のように過去を振り返ります。そして、これまでの人生で出会った人々、そして生物たちのことを思い出します。“わたし”は、死を目前にして、生命の尊さと、人生の儚さを改めて実感します。
「超・博物誌」は、博物誌という体裁をとりながらも、SF作品としての想像力とスケールの大きさを兼ね備えた、山田正紀の代表作のひとつです。奇妙な生き物たちの生態を通して、人生や世界の姿を描き出すその手法は、読者の心に深い感銘を与えずにはおきません。SF連作短編集の金字塔とも呼ぶべき一冊です。
まとめ
山田正紀の「超・博物誌」は、未知なる生命体の不思議な生態を描いたSF連作短編集です。奇想天外な設定の生き物たちが登場する一方で、博物誌の記述者である"わたし"の人生や、物語の背景となる世界の姿も浮き彫りになっていきます。SF作品としての想像力とスケールの大きさを兼ね備えた、山田正紀の代表作のひとつと言えるでしょう。ぜひ、この「超・博物誌」の世界に浸ってみてください。きっと、あなたの想像力を刺激する、すばらしい読書体験になるはずです。
文庫・再刊情報
叢書 | 徳間文庫 |
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出版社 | 徳間書店 |
発行日 | 1985/01/15 |
装幀 | 緒方雄二、矢島高光 |
叢書 | 集英社文庫 |
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出版社 | 集英社 |
発行日 | 00/09/25 |
装幀 | 川井輝雄 |