天保からくり船

天保からくり船

江戸の町に仕掛けられた、驚愕の歯車が今、廻り出す

2025年2月22日
2025年2月22日

天保からくり船 初版書影

叢書 初版
出版社 光風社出版
発行日 1994/03/15
装幀 中江蒼

作品解説

物語は江戸・上野の寛永寺での落雷に端を発する大火事から幕を開けます。この火事を境に、江戸の街に奇怪な出来事が相次ぎ始めます。

主人公の弓削重四郎は、御弓組同心の家柄でありながら、現在は芝神明町の裏店に住まい、傘張りの内職で糊口をしのぐ浪人です。彼の周囲には、岡っ引きの茗荷谷藤吉、廻船問屋の阿波屋利兵衛、居合の達人である弓師備後、鐘つきの徳兵衛、元盗賊の善助、そして正体不明の九十九など、多彩な人物たちが集まってきます。

寛永寺の炎上によって江戸の鬼門が崩れ、街に「魔」が侵入したという設定は、本作の独特な世界観を形作る重要な要素となっています。

本作の特筆すべき点は、時代小説としての確かな筆致と、作者・山田正紀独自の奇想が見事に調和している点です。江戸の風物や情緒を丁寧に描き込みながら、読者の想像を超える大胆な仕掛けが施されています。

作品評価

本作は、表層的には時代アクション小説として楽しむことができます。しかし、その本質は決して表層的な娯楽に留まりません。敵味方の境界が曖昧な展開や、徐々に明かされる謎の真相は、読者を予想外の結末へと導きます。

ただし、作品の評価において、大きな仕掛けと物語の展開の有機的なつながりについては議論の余地があるかもしれません。一部の読者からは、より緻密な伏線の配置を望む声も聞かれます。

それでも、本作は山田正紀の作家性が遺憾なく発揮された意欲作として高い評価を受けています。予備知識なく読み進めることで、より深い読書体験が得られる作品といえるでしょう。

おまけ

どうしても思い出してしまうのが、光瀬龍の「寛永無明剣」です。そんな方も多いのではないでしょうか。

文庫・再刊情報

天保からくり船 文庫書影

叢書 春陽文庫
出版社 春陽堂書店
発行日 2024/07/25
装幀 YOUCHAN、高林昭太